自社株買いについて

株式投資の基本

日本では、自社株買いを行う企業が増加しつつあります。国内株市場では、日本銀行が日本株ETFの買いを増やしていることが話題となっていたのですが、企業もそれに負けじと自社株買いを行っており、2018年度には自社株買いをする企業の買い付け総額が日本銀行のETF投資金額を上回っています。
果たして、自社株買いを進める企業の目的とはなんなのでしょうか?

日本株買いと自社株買い

日本銀行では、毎年日本株を投資対象とした上場投資信託である、日本株ETFへの投資を続けています。2011年から徐々に投資額が増えてきており、買付ペースが引き上げられた2015年は年3兆円ペースだったのに、今では年間6兆円のペースで投資を行い、累計買い付け数は27兆円にも達しています。
日本銀行が日本株ETFに投資する目的は、下値を支えることです。年間の買付ペースを守りながらも、午前中に日経平均が大きく下がった日には大口での買いを入れ、上昇してくると買いを減らすようにしています。上値を牽引するのではなく、あくまでも下値を支えるような買い方に徹しているのです。
そして、日本銀行だけではなく、企業も自社の株を買い取る自社株買いを熱心に行うようになっています。自社株買いは、発行済み株式数を減らすことで1株当たりの利益などを増やし、株主が持つ株の価値を高める株主還元の一環として行われるもので、これによって株価が上昇しやすくなるのです。
その規模は日本銀行の日本株ETFへの投資額を上回り、2018年度は日本銀行の投資額がおおよそ5兆6500億円であるのに対し、日本企業の自社株買いの総額は6兆円をこえていました。2019年はさらにその規模が拡大し、8兆円を超えると見られています。

なぜ、企業は自社株買いに熱心なのか

本来であれば、株を発行して売る側であるはずの企業がなぜ、自社株買いへと熱心に取り組んでいるのでしょうか?今でこそ自社株買いを行う企業が増えているのですが、もともと日本では、自社株買いは積極的に行われていませんでした。その代わりに行われていたのが、株式の持ち合いです。
しかし、ここ数年で特に自社株買いが盛んになっています。その原因となったのが、安倍政権になってから政策の変化です。第二次安倍政権が発足し、成長戦略の一つとしてアベノミクスが掲げられました。そのアベノミクス第三の矢としてコーポレートガバナンス改革が掲げられ、日本企業が国際競争に勝てるよう、「グローバル水準の自己資本利益率(ROE)」を挙げたのです。ROEは、経済産業省が公表した伊藤レポートの中で「最低8%を上回るROEの達成」という提言に従い、グローバル基準の最低値となる8%をまずは達成しよう、という動きが上場企業の中で出てきました。
ROEは当期純利益÷株主資本で算出されます。ROEの値を増やすためには、当期純利益を増やすか株主資本を減らすしかありません。配当は純資産の部の繰越利益余剰金の積立部分から行います。純資産の部に記載されるのは自己資本、つまり株主資本です。配当を行うと株主資本が減少するため、ROEは高くなります。また、自社株買いについては、購入した後に自社株の消却(※償却=減資の一種)を行えば、株主資本が減少します。つまり、ROEの式…当期純利益÷株主資本の分母が小さくなる分、当期純利益が変わらなくてもROEは上昇するわけです。
ROE上昇のために増配を続ける会社も多いのですが、その分、配当が負担になるケースも多いです。その理由について説明します。
新株発行により株主から資金を集め、その分、株主に配当という形で還元するというモデルは、バランスシート上は負債にならず、株主資本になります。銀行から借り入れする際は、好まれる財務状況であると言えるでしょう。なぜなら、株主から集めた資金は借金ではなく、配当も必ず行う必要がないからです。とはいえ、配当を期待した株主からは連続配当や増配圧力があるでしょうし、それに応えなければ、株価も下がってしまいます。それを恐れて配当を続けた結果、企業の配当負担が増えてしまうのです。ましてや今の日本は超低金利です。株主への配当額よりも、銀行借り入れの返済額の方が、少なくて済む可能性もあります。とはいえ、バランスシート上、負債が増えるのは好ましくはありません。
そこで注目されたのが自社株買いです。自社株買いを行うと発行済み株式の総数が減りますので、その分配当金負担も軽くなります。これに目を付け、発行済み株式総数が多い企業は、自社株買いを行って配当負担を減らす、という戦略をとるようになったのです。
増配の場合は株主にとってのメリットはあっても、企業としては配当負担が増えるだけで何のメリットもありません。そのため、米国企業は増配より自社株買いで株主還元を行うケースが増えています。投資家サイドはというと、実は自社株買いを歓迎する傾向が強いようです。というのも、純利益(株主にとって直接関係のある利益)が利益余剰金にプラスされ、そこから配当が出るからです。また、利益余剰金は株主資本に該当しますので、ここが増えれば株主の資本が増えることになります。会社を解散した時に株主の数が少なければ少ない程、その分の分け前が増えるわけです。
例を挙げます。発行済み株式数が1000万株の企業があったとします。その企業が10億円の利益を上げた場合、1株あたりの利益は100円ということになります。しかし、自社株買いで200万株を買うと、発行済み株式数は800万株になります。その状態で同じく10億円の利益があった場合、1株当たりの利益は125円になるのです。1株当たりの利益が増えたのに株価が変わらなければ、投資家にとっては割安株となります。つまり、本来の株価よりも低い価格で放置されていることになり、上昇余地があるわけです。
株主の分け前が増える会社の株を買いたい、という投資家が増えることから、株価は上昇します。また、割安となった株の上昇余地を狙って買う投資家も出てきます。そのため、自社株買いを行うと、株価が上昇するケースが多いのです。さらに、株価の上昇によるキャピタルゲインの獲得も見越した上で、その株を買おうという投資家も出てくるでしょう。そのため、自社株買いを行うと、株価は上昇するのです。株を買う投資家が増え、株価は上昇します。株価が上昇すれば、企業の時価総額も増えます。つまり、自社株買いを行うことで、企業価値も高まるわけです。

今後も自社株買いは続くのか?

自社株買いは、今後も株主還元の主流となるのでしょうか?結論からいうと、その可能性は高いです。先ほど書いたように、日本は超低金利です。この状態が続けば、自社株買いは定期預金などよりもよほど魅力的に感じる人は多いのではないでしょうか。
このことについて、PERを基に考えてみましょう。
PERは
・株価÷EPS(一株あたり利益)
・時価総額÷純利益
のどちらかで計算できます。どちらで計算しても同じ結果となります。
日本の上場株のPERは平均で12倍ほどと言われています。それに対し、世界の平均は16倍、米国の場合は20倍ほどがPERの平均です。つまり、世界平均と比べると、日本の上場株のPERは低いのです。

PERから判るのは、投資資金の回収期間です。つまり、PER10倍であれば、投資資金を10年で回収できる計算になります。PERが低いということは、この期間が短い優秀な貸付先、ということになります。ですが見方を変えれば、それだけ短期でしか貸し付けたくない先…つまり、将来的な不安があるため、長期間の回収は避けたい投資先、ということになります。

自社株買いを行うと、発行済株式総数が減るため、1株あたりの利益…つまりEPSは大きくなります。株価÷EPSがPERなので、株価が変わらなければPERは下がるわけです。ですがPERは低下するものの、既述の理由から買われる可能性が高くなります。そうなると、株価は上がり、企業価値も高まります。つまり、定期預金で低い金利を貰い続けるよりも、ずっと大きな利益が得られる可能性が高いのです。世界的に見て低い日本のPER平均が世界水準と同レベルになった時、自社株買いは株主還元の主流ではなくなるかもしれません。

まとめ

企業が自分で発行した株を買い戻す自社株買いという動きは、株価水準を高めることにつながる株主還元の一種として行われます。最近では、増配よりも自社株買いに力を入れている企業が増えているので、投資家にとっては長期的に見た場合の大きな利益へとつながるでしょう。
増配は目に見えてわかりやすいのですが、自社株買いの効果は直接的に出るものではないので長い目で見て分析しなくてはわかりにくいかもしれません。しかし、確かに株価水準を高める要因となることなので、自社株買いを進める企業には注目しておきましょう。

執筆者:佐藤真奈美より

 はじめまして、当サイトである『投資塾』で記事の執筆を担当させて頂いております、佐藤真奈美と申します。現在、複数の投資関連のメディアサイトに相場予想や投資関連の解説等の記事を寄稿しておりますが、『投資塾』では、株式投資のニュース、経済指標、金融政策等、「市場参加者が、何を見ているか」に重点を置き、株式投資の初心者にも分かりやすいよう、他では知れない情報の提供に努めさせて頂いております。

執筆者:佐藤真奈美について

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