リスクが低く、大きなリターンに期待できることから人気があるIPOですが、中には初値が公募価格を下回る結果となるIPOもあります。このことを公募割れというのですが、IPOで下がってしまい公募割れになる銘柄にはいくつかの共通した特徴があります。その特徴を知っておくことで、IPOで下がってしまう銘柄を回避していきましょう。
IPOは必ず利益を得るわけではない
毎年、多くの企業が上場してIPOが開催され、投資家も抽選を潜り抜けて購入しています。なぜそれほど人気があるかといえば、IPOはほとんどの場合、初値が公募価格を上回っているため、非常に利益を得やすいからです。
実際に、2018年に行われたIPOは90社ありましたが、そのうち81社は初値が公募価格を上回ることとなりました。勝率9割というのは、通常の株式投資ではなかなか見られない数字でしょう。
しかし、100%ではない事からも分かるように、残り1割にあたる9社は初値が公募価格を下回る、いわゆる公募割れとなっています。IPOは高い確率で利益を得ることができますが、確実という訳ではないのです。
公募割れとなった9社の中でも、特に話題となったのがソフトバンクです。これは、通信事業で有名なソフトバンクグループの国内通信子会社であり、東証1部上場ということと2千億円を超える資本金、そして17億株以上を売り出し公開規模は2兆6千億円ということで、過去最大規模のIPOとなりました。
有名企業であり、過去の実績からも超大型のIPOは勝率が高いとされていたため、多くの人がIPOに参加していました。ソフトバンクは12月にIPOが行われましたが、同年6月には同じく超大型IPOであったメルカリが成功を収めていたことから、投資家でも期待している人は少なくなかったのですが、その中でも公募割れを予想する声が少なくなかったのです。
なぜ、公募割れの心配をする声があったのかといえば、それは公募割れ銘柄に共通する特徴に当てはまる部分が多かったからです。果たして、どのような特徴があったのでしょうか?
上場する証券取引市場が東証1部、あるいは2部
IPOを見てみると、多くの銘柄はマザーズやジャスダックに上場する銘柄です。しかし、中には東証1部や2部に上場するという企業も見られます。東証1部や2部に上場するには厳しい条件があるので、その条件を満たして最初から上場できる企業というのは、有名な企業である可能性も高く、またその規模も大きなものとなります。
しかし、こうした企業は上場しないまま経営を続けてきているので、創業からある程度の期間が経過しているため、安定した成長は望めても、成長期の会社のような「売上が前年比200%」「営業利益が前年比200%」などといった高成長はなかなか望めません。よほど目新しい材料がなければ、成長性に関しては高い評価をなかなか得られないのが現状です。
また、こうした企業は現時点で既に十分な資本金を持っているため、資金が集まりにくいということもあります。
さらに、東証1部の場合は他の市場と比べて流通させる株式の単位が大きいため、どうしても大量の株式を発行し、流通させることになってしまいます。最低流通単位がマザーズの10倍となっているので、それだけ多く発行することになるのです。そうなると、IPOでの当選ハードルも下がるので、多くの人が当選します。そのせいでプレミア感が薄くなり、上場時には売りたい人が多くなり、買いたい人が少なくなるために値崩れしやすい環境が整ってしまうのです。
公募割れをしやすくなる売り出し株数としては、1,000万株以上が目安といわれています。確実に公募割れするようになるわけではないのですが、これを越える株数が発行されている場合はそのリスクが高くなると考えておきましょう。
想定価格に対して仮条件が低い
上場申請をする前に、企業と主幹事証券会社は想定価格を決定します。それに対して、上場承認後にはその想定価格に機関投資家などの投資の専門家の意見を反映して、仮条件となる価格を決定します。この仮条件には、実際の需要見込みなどが強く影響することになります。
想定価格と仮条件を比較した時に、仮条件には機関投資家の意見や評価、需要見込みなどが影響しているので、需要が低い場合や評価が芳しくない場合は想定価格よりも低く見積もられることになります。そうなると、思ったよりも初値が高くならないために公募割れとなる可能性が高くなるのです。
ソフトバンクは公募価格が仮条件の上限に満たなかった
IPOの公募価格というのは、仮条件の範囲内で個人投資家や機関投資家が行う需要申告(ブックビルディング)の結果に応じて決定されることになります。需要が高ければ仮条件の上限となるのですが、需要が十分でない場合は仮条件の上限に満たない金額での公募価格となってしまいます。ソフトバンクの場合は、日本で初めて仮条件に幅が設けられない事となっていたため、仮条件であった1,500円というのがそのまま公募価格となっていました。しかし、実際にはあまり需要が高くなかったため、公募価格は実情よりも強気となってしまったことも、公募割れの原因につながりました。
ソフトバンク独自の問題
ソフトバンクのIPOが公募割れとなった原因については、これまでのIPOにおける公募割れの特長に当てはまる点が多かったというのもありますが、それ以外にもソフトバンクならではの問題点がありました。それは、12月上旬に起こったソフトバンクの通信障害です。多くの人がソフトバンクショップに駆け込み、ニュースでも大きく取り上げられていたため、印象に残っている人も多いでしょう。
この通信障害は非常に広範囲に影響していましたが、その原因が通信ソフトウェアの有効期限切れと、ソフトバンクのシステム管理の甘さが露呈した事故となりました。今や欠かせない物となった携帯電話やスマートフォンがいきなり通じなくなったということで、ビジネスだけではなく生活においても重大な問題となったのです。
このことで、ソフトバンクに対しての信用が大きく損なわれたことは間違いありません。IPOの開催がその直後であったために、このことが強く印象に残りソフトバンクを敬遠する人が多かったというのも、公募割れの原因となったのではないでしょうか。
また、それ以前にもソフトバンクは性急にIPOを進めていこうという姿勢が見られました。世界経済の見通しが不透明と言われている中で、新たな事業展開や関連企業への投資をする為の資金確保にIPOを急ぐソフトバンクグループの姿は、投資家から見てあまりに強引で、不安に思う人も多かったでしょう。
他にも公募割れとなった原因は色々挙げられますが、ソフトバンクは公募割れしやすい条件とその時起きたトラブルがIPOのタイミングに重なって、公募割れとなってしまいました。
今後、IPOに参加する際は、公募割れする企業の特徴を満たしていないかという点と共に、その企業の話題などもしっかりとチェックしておきましょう。
まとめ
大企業の株には安定感があるので、投資先としては安心できるように思えますが、ことIPOにおいては安定感よりも成長性に注目が集まるので、大企業だからといって損をしないとは限りません。
2018年に行われたソフトバンクのIPOのように、IPOでも損をする可能性は十分にあるので、IPOだからと気軽に応募するのではなく、しっかりとその企業の将来性などを考えて、上がりそうなIPOを選んで投資するようにしましょう。