IPOで公募価格割れとなった会社の目論見書を見てみよう

IPO投資

大英産業の目論見書を基に、ポジティブ材料とネガティブ材料をチェック

前回、前々回と実際に上場した会社の目論見書を基に、ポジティブな点やネガティブな点を確認してきました。これまで取り上げた会社はいずれも公募価格を上回っていますが、今回は、公募価格割れとなってしまった会社の目論見書をチェックし、どのような内容になっていたのかについて確認してみましょう。

今回確認するのは、今年の6月4日に上場した大英産業という会社です。大英産業は九州および山口県を中心にマンション事業と土地活用、戸建事業などを行っている不動産会社です。昭和43年創業で、近年の売上は増収が続くなど好調なようです。

大英産業の売上は増収基調ですが、経常利益については、前期(2018年9月期)は減益、営業利益については増益となっています。経常減益となった理由としては、支払い利息が増えたことや受取手数料、その他の収入が減ったことが原因のようです。

なお、今1Qに関しては営業赤字、経常赤字となっています。また、今1Qは原価率が約80.7%と前期の約80.1%、前々期の約77.4%から上がっていることと、販管費が約27.3%と、前期の約17.5%、前々期の約15.7%から大幅に上がっていることが原因として考えられます。

同社は4Qに売上が集中する傾向があり、かつ、柱となる2つの事業(マンション事業と住宅事業)のうち、利益率の高いマンション事業が1Qは引き渡しできる新規竣工物件がなかったため、1Qのセグメント利益は赤字となっています。また、上場費用も販管費の増加の原因になったのかもしれません。そのため、1Q時点の同社の業績は冴えない内容になっています。おそらくこの状態が3Qまで続き、例年通り順調にいけば、4Qに粗利率や営業利益率が改善されるものと考えられます。そのため、今2Q以降に原価率や販管費率がどのように推移するかに注意が必要です。ちなみに、同社は今期について増収増益を予想しています。

とはいえ懸念事項もあります。前期と前々期の業績を確認すると、期を追うごとに粗利率が低下し、営業利益率も低下しているこのことがネガティブであると考えられます。また、会社の自己資本比率は、今1Q時点で16.64%とかなり低く、この点も懸念材料であると考えられます。さらに、フリーキャッシュフローは前期がプラスだったものの、前々期は大幅なマイナスです。流動資産に関しては、前期も前々期も流動負債より多いことがポジティブですが、現金及び預金は前期、前々期ともに流動負債より少ないため、財務状況や資金繰りについては不安要素があり、ネガティブです。また、同社の二本柱となっているマンション、戸建住宅関連に関しては、2020年東京オリンピック後の需要悪化が懸念されていることもネガティブであると考えられます。

ちなみに、IPOの資金を何に使うかということについて、同社はマンション事業における分譲マンションプロジェクトの借入金の返済に充てるとしています。これにより、同社の自己資本比率は改善されるものの、新規事業や設備投資など会社の成長のために使うわけではないことがネガティブであると考えられます。

大英産業のIPOについては、公募と売出のどちらも行いました。公募に関しては、31万2,000株、売出12万3,000株ということで、売出株式比率は28.3%と公募の方の比率が高いことがポジティブ要素です。なお、オーバーアロットメントによる売出は1万5,000株となっています。オーバーアロットメントによる売出は、この規模に対し少ない方であると考えられます。

次に想定価格ですが、こちらは1500円でした。そして仮条件価格は1,420円~1,520円となっています。想定価格から算出される吸収金額は、1,500円×(312,000+123,100+15,000)≒6.75億円です。福岡証券取引所にしては比較的大型の上場案件と言えるかもしれません。福岡証券取引所に単独上場する企業がまだ少なく、このくらいの規模が吸収金額として妥当、ということが言えないのです。また、大英産業の公募価格は1,520円となりました。この公募価格は、先ほど書いた仮条件の上限ぴったりの金額で、仮条件の上限を下回りませんでした。これはポジティブ材料であると考えられます。

なお、同社の株主の状況を確認すると、ベンチャーキャピタルの保有株はなく、同社社長の保有比率が44.40%となっていて、その次に同社の常務取締役の配偶者が25.29%の保有比率となっています。同社の大株主は主に同社の役員が占めており、中には従業員持株会もあり、この保有割合は2.24%です。ロックアップに関しては、従業員持株会以外の大株主に対し180日間のロックアップ期間が設定されています。なお、同社の第一回新株予約権者に対しては90日間のロックアップ期間が設定されています。ちなみに、「株価が公募価格の〇%以上になればロックアップが解除される」といった条件は設定されていないようです。先ほど書いたとおり、従業員持株会にはロックアップがかかっていませんが、従業員持株会は従業員の積み立て用に株を運用しているため、上場と同時に売却するとは考えにくいでしょう。

このことから考えられるのは、

〇大英産業は主力がマンションや戸建てで、東京オリンピック後の需要悪化が懸念されていることがネガティブ。

〇業績については概ね増収が続いている。今1Qは営業赤字、経常赤字だが、同社の売上が4Qに集中することが原因の一つであると考えられる。ただ、同社の粗利率や営業利益率が低下していることがネガティブ。また、財務状況も自己資本比率が16.64%と低く、資金繰りに関しても不安要素があることもネガティブ。

〇公募と売出と両方あるが、公募の方が多いことがポジティブ。ただ、上場市場が地方証券取引所である福岡証券取引所ということで、流動性に難あり。吸収金額は福岡証券取引所の単独上場銘柄の中では比較的大きい方と考えられる上に、オーバーアロットメントが少ないことがネガティブ。

〇公募価格が仮条件の上限を下回っていないことはポジティブ。

〇大株主の中にベンチャーキャピタルがいないことはポジティブ。大株主が保有する株に関しては、ロックアップ期間が180日間設けられている。株価に関するロックアップ解除条件は定められていない。長期保有の場合はロックアップ期間を過ぎた後に要注意である。

ということになります。

このように、大英産業に関しては、ポジティブ材料もあるもののネガティブ材料の方が多く、初値が公募価格を下回る可能性が高いと考えられたのです。

大英産業は初値が公募価格割れとなった

ここまで、大英産業のIPOに関し、ポジティブな点とネガティブな点をそれぞれ挙げました。先ほど書いたとおり、大英産業に関してはネガティブ要素が多く、公募価格割れとなる可能性が高かったのですが、6月4日に上場した際、やはり公募価格割れとなってしまいました。公募価格である1,520円売り気配となった後、気配値を切り上げる展開になったものの、初値は公開価格から12.5%マイナスの1,330円となりました。また終値は初値を下回る1,246円となったのです。

この大英産業のIPOの例からは、ネガティブ材料が多いと初値が公募価格を下回る可能性が高いことが判ります。同社の場合、福岡証券取引所の単独上場銘柄であったことも、個人投資家に忌避された原因となったことが考えられます。すでに書いたように、福岡証券取引所の単独上場銘柄は、流動性が低く、展開が読みづらいのです。吸収金額も東証二部や東証マザーズ、ジャスダックに比べると小さくなります。そのため、初心者がIPOの銘柄を選ぶ場合は、流動性の低い地方の証券取引所に単独上場する銘柄は避けた方が賢明です。大英産業に関しては、財務状況や資金繰りなどにも不安な点があり、ネガティブ材料の方が多かったため、IPOに申し込むのは避けた方が良い銘柄でしたが、仮にポジティブ材料の方が多かったとしても、このようなマイナー市場のIPOに関しては注目度が低いために不人気となり、公募割れすることがあります。そのため、これらの市場のIPOは、特に初心者のうちは避けた方が良いでしょう。

まとめ

今回は、最近上場した会社の中で公募価格割れとなった会社の目論見書の内容がどうなっているのか、ということについて確認しました。見るべきポイントは、前回、前々回と同じですが、公募価格割れとなってしまっただけあって、ネガティブ材料が多いことが判ったのではないでしょうか。目論見書を確認する時は、ポジティブ材料とネガティブ材料のどちらが多いのかを必ず確認しましょう。もしもポジティブ材料とネガティブ材料が同数、あるいは大きな違いがないようであれば、判断が難しくなるため、その場合は申込を避けた方が良いかもしれません。

執筆者:佐藤真奈美より

 はじめまして、当サイトである『投資塾』で記事の執筆を担当させて頂いております、佐藤真奈美と申します。現在、複数の投資関連のメディアサイトに相場予想や投資関連の解説等の記事を寄稿しておりますが、『投資塾』では、株式投資のニュース、経済指標、金融政策等、「市場参加者が、何を見ているか」に重点を置き、株式投資の初心者にも分かりやすいよう、他では知れない情報の提供に努めさせて頂いております。

執筆者:佐藤真奈美について

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