ポジティブ材料とネガティブ材料が同じくらいの場合のIPOを見てみよう

IPO投資

最近上場した会社の目論見書を基に、ポジティブ材料とネガティブ材料をチェック

ここ数回、実際に上場した会社の目論見書を基に、ポジティブな点やネガティブな点を確認し、公募価格を上回った例と反対に下回った例について見てきました。それでは同じくらいの場合はどうなるのでしょうか。

今回確認するのは、今年の6月19日に上場した日本グランデという会社です。前回説明した大英産業と同様、不動産会社ですが、日本グランデは、マンションとRC戸建住宅の開発・分譲事業を行っています。本社は北海道札幌市で東京にも支店がありますが、主に北海道を中心に事業を展開しているようです。主力事業は分譲マンションのグランファーレシリーズで、フィットネスジムや天然温泉、サウナなど充実した施設を備えたマンションで人気を集めているようです。

ちなみに、6月19日という上場日ですが、この日はSansan(4443)という会社も上場が予定されており、こちらの方の注目度が高かったため、日本グランデにとっては上場日もネガティブとなってしまいました。また、この日本グランデのIPOは主幹事が藍澤證券という中堅証券会社で、かつ、インターネットからの申し込みができる会社は幹事会社である岡三証券とSBI証券の2社のみという間口の狭いIPOでした。

日本グランデの売上は増収が続いていましたが、2018年3月期は減収となりました。経常利益は、2015年3月期に赤字となったものの、それ以降は2期連続の増益になりましたが、2018年3月期に減益となっています。その原因として、主力の不動産分譲事業で競合他社との仕入れ販売競争が激化したことと、それに伴う販売戸数の減少を同社は挙げています。販売戸数の減少により減収となったものの、原価率は前期(2017年3月期)の約86.8%から約82.8%に減少しており、粗利率も前期の約13.2%から約17.2%に改善しています。ただ、販管費率が前期の約9.7%から約14.0%に大幅上昇するなど販管費が前期よりも増加したため、減収となった売上に対して重しになりました。また、前期にあった補助金収入が激減したことも経常減益の原因となったようです。

なお、今3Qに関してはすでに前期の売上高を超過しています。同社は今期売上高が54憶2,500万円、営業利益3億6,400万円、経常利益3億3,300万円を予想しています。3Q時点での進捗率は、売上高は86.0%、営業利益、経常利益はすでに会社計画を超過しています。同社前回解説した大英産業同様、4Qに売上高が集中する傾向があることを考慮すると、2019年3月期の売上高は会社計画を上回る可能性が高く、営業利益、経常利益も会社計画を大幅に超過する可能性があり、その点がポジティブです(余談ですが、同社は上場日に2019年3月期決算を発表しました。結果は、大幅な増収増益となっています)。なお、同社は不動産賃貸事業の利益率が高いため、今後は不動産賃貸事業をいかに成長させるか、ということが重要であると考えられます。

一方、同社は自己資本比率が今3Q時点で20.0%と低いことが懸念材料の一つです。前々期が10.8%、前期が15.8%であったことを考慮すると改善は進んでいますが、まだまだ安定しているとは言い難い状態です。また、フリーキャッシュフローが前々期はプラスだったのに対し、前期はマイナスになっています。流動資産に関しては、前期も前々期も流動負債より多いことがポジティブですが、前々期は現金及び預金が流動負債より多かったものの、前期は少なくなってしまっています。そのため、分かる限りの直近の財務状況や資金繰りについては不安要素があり、ネガティブであると考えられます。また、同社の主力であるマンションや戸建住宅関連は、2020年東京オリンピックが需要のピークとなった後、需要の悪化が懸念されていることもネガティブであると考えられます。

ちなみに、IPOの資金を何に使うかということについて、同社は全額を不動産賃貸事業における開発資金に充当するとしています。同社がIPOの資金を充てるのは、2019年6月に開発予定のサービス付き高齢者向け住宅の開発資金である建築工事代、初期費用とのことです。すでに書いたとおり、同社の不動産賃貸事業は、まだ売上高は少なく、前期の売上高全体の中の割合は10%弱といったところですが、利益率は前期で約54%、前々期で46.8%と他のセグメントと比較すると非常に良く、利益率も改善しています。そのため、このセグメントに力を入れるためにIPOの資金を充当したいというのはポジティブであると考えられます。

なお、日本グランデのIPOについては、公募と売出のどちらも行いました。公募に関しては、15万株、売出3万5,800株ということで、売出株式比率は19.3%と公募の方の比率が高いことがポジティブ要素です。なお、オーバーアロットメントによる売出は0株となっています。オーバーアロットメントによる売出がないため、売り気配で始まった場合にシンジゲートカバー取引の買い支えがなく、この点がネガティブであると考えられます。

次に想定価格ですが、こちらは720円でした。そして仮条件価格は720円~750円となっています。想定価格から算出される吸収金額は、720円×(150,000+35,800)≒1.34億円で、かなり小規模な公開規模であると言えます。また、公募価格は750円となりました。この公募価格は、先ほど書いた仮条件の上限ぴったりの金額で、仮条件の上限を下回りませんでした。これはポジティブ材料であると考えられます。

なお、同社の株主の状況を確認すると、ベンチャーキャピタルの保有株はなく、会社または同社の役員が保有しています。なお、過半数あるいは過半数近く保有している株主はいません。中には従業員持株会もあり、この保有割合は0.57%です。ロックアップに関しては、従業員持株会と2名の個人株主を除く大株主に対し180日間のロックアップ期間が設定されています。従業員持株会は長期運用目的のため、上場と同時に株を売却することは考えにくく問題ありませんが、ロックアップが設定されていない2名の個人株主については少々不安です。ただ、この2名の株主のうち1名については、同社の従業員持株会に保有株の一部を売却することが決まっています。そのため、上場の際の売却が考えられるのは実質1名ということになり、その保有割合は2.88%で株数は35,900株ですので、おそらく需給に大きな影響は出ないと考えられます。ちなみに、「株価が公募価格の〇%以上になればロックアップが解除される」といった条件は設定されていないようです。

このことから考えられるのは、

〇日本グランデは主力がマンションや戸建てで、東京オリンピック後の需要悪化が懸念されていることがネガティブ。

〇業績については概ね増収増益。今期については、会社計画の大幅な上振れが予想され、営業利益以下はすでに超過。前期に関しては減収減益となったが、同社の粗利率や営業利益率を見ると内容は決して悪くない。この点はポジティブ。また、利益率の高い不動産賃貸事業にIPOの資金を使うとしている点もポジティブ。財務状況は自己資本比率の改善が進んでいるものの、前期は20.0%と低く、資金繰りに関しても不安要素があることがネガティブ。

〇公募と売出と両方あるが、公募の方が多いことがポジティブ。ただ、上場市場が地方証券取引所である札幌証券取引所ということで、流動性に難あり。ただ、吸収金額が非常に小さいため、どうにかなりそうであると考えらえる。オーバーアロットメントが無いことはネガティブ。

〇公募価格が仮条件の上限を下回っていないことはポジティブ。

〇大株主の中にベンチャーキャピタルがいないことはポジティブ。大株主が保有する株に関しては、1名を除きロックアップ期間が180日間設けられている。ロックアップ期間の設けられていない株主については保有割合が小さいため、上場時に売り出しても、買い玉が吸収できると考えられる。なお、株価に関するロックアップ解除条件は定められていない。長期保有の場合はロックアップ期間を過ぎた後に要注意である。

〇上場日に他の注目IPOがあることがネガティブ。

ということになります。

このように、日本グランデに関しては、ポジティブ材料とガティブ材料が同じくらいになっており、初値が予想しづらい状態でした。おそらく、初値は公募価格と同値か、上回っても下回ってもその近辺に留まる可能性が高いと考えられたのです。

日本グランデは初値が公募価格を若干上回った

ここまで書いたとおり、日本グランデはポジティブ材料とネガティブ材料が拮抗しました。その結果、6月19日の上場時の初値は公募価格を若干上回る752円となったのです。

日本グランデの場合は若干とはいえ、初値は公募価格を上回りました。しかし、ポジティブ材料とネガティブ材料が拮抗している場合は、正直なところ、公募価格を上回るか下回るか読みづらく、初心者は手を出さない方が賢明です。特に、前回の大英産業や今回の日本グランデのような地方の証券取引所のIPOは避けた方が良いと言えるでしょう。

まとめ

今回は、最近上場した会社の中でポジティブ材料とネガティブ材料が拮抗した場合にどうなったのか、ということを解説しました。すでに書いたとおり、ポジティブ材料とネガティブ材料が拮抗している場合はどちらに転がるかわからないため、手を出さない方が賢明です。もしもその銘柄が人気のない業種であるものの、将来性を感じるので取引したい、という場合は、IPOのセカンダリー投資を行った方が良いかもしれません。

執筆者:佐藤真奈美より

 はじめまして、当サイトである『投資塾』で記事の執筆を担当させて頂いております、佐藤真奈美と申します。現在、複数の投資関連のメディアサイトに相場予想や投資関連の解説等の記事を寄稿しておりますが、『投資塾』では、株式投資のニュース、経済指標、金融政策等、「市場参加者が、何を見ているか」に重点を置き、株式投資の初心者にも分かりやすいよう、他では知れない情報の提供に努めさせて頂いております。

執筆者:佐藤真奈美について

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